醤油絞り
一年間かけて作った醤油のもろみを絞りました。
去年の2月、醤油仕込みの「塩きり」作業の写真です。
醤油の材料は下の三つです
・味噌と炒った小麦に麹をつけたもの
・塩
・水
今回は二種類の麹を使って作りました、最初からだいぶ雰囲気が違いましたが仕上がった醤油も随分違ったものになりました。
こちらは仕込んだばかりの醤油、ようやく豆がふやけて来た感じの頃。ただの塩水味です。
仕込み後、最初は週一くらいで切り返して醸造していきます。写真は奥の樽から手前の樽にもろみを移しながら天地返しをしているところ、よく空気が入るように小分けで切り返します。うちのもろみは「大豆が崩れていなくて、丁寧に天地返ししていたのがわかる」と醤油絞りのトキさんに言われました。
ところで醤油づくりって暗い蔵の中でよく混ぜて作るっていうイメージがありませんか?
僕らの醤油はカンカンに日が当たるところで暖かくして作ります、ビニールハウスに入れてもいいと言われましたが、さすがに暑すぎる(50度とかなる)かなと思って、樽を南向きの軒下に置いて熟成しました。
それは言うなれば、ひだまり醤油。
大手のお醤油は大量生産するために大きな樽を使い、不安定な環境の影響を受けないようにコントロールできる蔵に入れる、空気が足りなくなるから圧縮空気を送り込む。いつしかこの方法が醤油づくりのスタンダードのように勘違いされてしまったとトキさんは言います。微生物的に見れば、温度があった方が活動もよく、ある程度分解が起こったら上下をかき混ぜて空気を入れてあげればいいはずです、なんか堆肥と一緒ですね。そんなひだまり醤油づくりの方法を編み出したのが萩原忠重さん(こちらのページがとてもわかりやすいです)、今トキさんのような孫弟子さんたちが醤油絞りで活躍されています。
こうやって醤油づくりを伝えることで僕らもいつか「先祖」になる。
今やデジタルでなんでも保存ができる時代、千年たっても2016年の歴史についてはかなり正確に把握できるでしょう(過去の歴史は全て「勝者のもの」です)。でも、脈々と受け継ぐべきものもあると思います。こういう技術が廃れずに後世にも引き継がれるようにしなくては。
醤油づくりから想いを馳せてぶっ飛んでしまいましたが、トキさんとの出会いは僕の中でエポックでした。
もろみを布袋に移すトキさん。優しい語り口の魅力的な人でした。
だいぶ話が逸れましたが、約一年切り返しを続けたもろみがこちら。味噌のようにもみえますね。これにお湯を加えて、もろみに含まれるお醤油成分をとかし出してから絞ります。この勘所が難しく、比重計なども使うのですが最終的に絞った醤油をイメージしてお湯を足していくそうです。これまでたくさんのお醤油を絞った経験からの判断、まさに職人技です。
いよいよ絞り、専用の醤油絞り箱を使います。スムーズにお醤油が出るよう工夫が凝らされていました。袋にもろみを入れて、丁寧に均等になるように袋を重ねます。子供達も興味深げにのぞいています、この醤油絞りで面白かったのは「いつでも試飲可能」という点、みんなもろみを舐めたり、袋を触った後の手をペロッとしたり、ちょろちょろとで始めたのを何度もなんども舐めてました。どんどん変化する味を楽しみました。
こちらは絞り箱の内部、たくさん溝が切ってありお醤油を無駄なく集められるようになっています。もちろん手作り!
そしてでてきたお醤油。最初の方は色が濁っていますがだんだん澄んだ色に変化してきて、最後は紫色になります。
もちろん味も違います、最後に出てきた醤油は雑味が全くない!一番美味しいところです。なんとなくだしっぽくて味わいがあります!いつもの醤油とは全く違う感じ。
最後はジャッキを使って完全に絞ります、じっくり時間をかけて油圧してジワジワとだします。
しぼりたてのお醤油をお湯で割って飲みます、なんとも優しい味。だしなしでお吸い物のような味わい!美味しい。
最後に絞った醤油に火入れします。ゆっくり温度を上げていって88度になったらアクを取ります。火入れによって不純物を取り除き、微生物の発酵を止めます。独特の香りも強くなった感じがします。
できたお醤油は樽に移して一週間くらい静置して不純物を沈殿させてから瓶詰めします。
火入れしないのは生醤油(きじょうゆ)、さっそく餅をついてつけて食べたり、うどんを茹でてぶっかけでいただきました。食べ過ぎましたw
今回二種類の麹を使って作りましたが、味・色が全く違っていて面白かったです。色が薄い方は塩味が強く、いかにもお醤油な感じ。逆に色が濃い方は塩味が弱く、出汁醤油っぽい感じ。醤油を使い分けるのも楽しそうです。
それにしてもなんとも平和な行事でした、ゆったりと流れる時間、お日様も祝ってくれるかのようなポカポカ陽気、持ち寄った楽器を演奏する人たち、遊ぶ子供たち、おいしいお醤油。。。
あ、もう一つ面白い話があったので書きます。
お醤油の醸造期間についての話。2,3年醸造した醤油はじっくりと微生物が分解してたくさんの旨み成分が出るそうです、ワインのようなイメージでしょうか。ただ期間が長くなるとアルコール分に含まれる微量の香り成分などが失われたり、変化するそうです。やっぱり生きてるんだな〜と思いました。
お魚が切り身で泳いでいると思っている子供達、笑ってしまいます。でもペッットボトルに入ったお醤油からその材料、作っている工程をイメージできなかった自分も同じかな。食生活と食を作る現場がどんどん離れていっているのは怖いです。。。
こちらはオマケのもろみの絞りかす、醤油づくりした人だけが味わえるまかないみたいなもんでしょうか?ふりかけにしてご飯にかけてよし、麻婆豆腐に入れるトーチのように使ったり、餃子に入れたり!嬉しいオマケです。
来週は瓶詰め作業です、かなりたくさん(一升瓶11本?)あるようなので楽しみです。